身近にあったクローン

近所のホームセンターでひとしきり悩んだ挙句、2度目の往訪で結局買ってしまった。
冬の時期になるとポット苗が店先に並んだり、庭に地植えした株も活動を始めて新芽が出てきたり、クリスマスローズに対する関心がなぜか再熱して今シーズンもやってしまった。思い切って購入したのはブラックパールと命名されたメリクロン苗だ。
手のひらに乗るほどの小さなポット苗にも関わらず、なんと657円の高値が付けられており、いつもだったら298円の苗が半額引きになって手が伸びるくらいだから、なかなかの決断だった。

丈夫で手間がかからないし、何といっても霜に強い植物なのがすっかり気に入って、4年前には専門書まで買った。
本の中で掲載されている写真も豊富でおまけにキレイ、お花の種類から詳しい育て方、そもそもの歴史から品種改良を始めたイギリス人女性育種家の話まで、もうお腹いっぱいの充実した内容になっていて、時々手に取って眺めたりしている。
その中で1ページほど割かれているのがメリクロン(成長点培養)と呼ばれる増殖方法だ。短期間で効率よく大量に増やすバイオテクノロジーのクローン技術のことだが、本書では決して「クローン」という不穏な言葉は使っていない。しかし、要するにクローンだ。ウイルス性の病気にも強く、審美的な面からも重宝される個体だけを人が厳選して全く同じ品質の優良株を大量に増やすことが可能で、お花の安定供給と普及に大きく貢献している技術とのこと。
そうか、園芸の世界ではすでにそんなことが公然と行われていて、身近な場所にヒタヒタと忍び寄ってきていることにも驚きだが、なにより人間の欲深さを覗き見るようで恐ろしくもある。
これが観賞用の小さな植物ならまだ許せる範囲なのかもしれないが、それが食用の野菜や果物、もっと踏み込んで魚や動物、例えばウイルスのせいで大量処分されるような鶏に適用されたら心痛むニュースもなくなるのだろうか、あるいは肉質も良く病気にも強い優良豚のクローン、、、。
試しに一度メリクロンなるものを買ってみようと思った。

もう一つ本の中で気づいたのが、古い葉っぱは切った方がよいとさまざまな場面で書かれていたことだった。確かに掲載されている写真のほとんどはお花が咲いている茎だけを残して、わさわさと茂る周辺の葉っぱを全部切り落として、スッキリとした株立ちの姿で咲いているものばかりだ。
そうか、古い葉っぱは切った方がいいのかと認識を新たにして、早速実践してみた結果、2021年冬の姿がこれだ。

あまりにも寂しすぎて哀れになってくるのだが、8号鉢に植え替えているので、3年目か4年目の株だろうか、春先に新芽がふたつしか出てこず、一本は風で吹き飛ばされて、残った一本は葉っぱが4枚の風前のともしびで、よく生きているなぁとさえ思う。
気付け薬か気休めか、固形化学肥料をドラッグのように施肥して、がんばれ頑張れと見守るしかない状態だが、この株はまだマシな方で、せっかく黒っぽい色の花が咲いて喜んでいた株に至っては、花が咲き終り、やがて花芽も枯れ、地上部分には茎一枚すら残っておらず、新芽が出るかなと観察していたものの結局何の変化も起きないまま冬を迎えてしまい、おかしいなと思い植え替えしようと鉢をひっくり返すと、根っこすら残っていなかった。
本を監修したエキスパートの方々を非難するつもりは全くないが、結果的に角を矯めて牛を殺すようなことになってしまい、ショックも大きかった。多少見栄えが良くなくても古い葉っぱが青いうちは、花が咲く茎ばかり残して古葉を全部切ったりせずに、それこそ適当に放っておかなくてはいけなかったのだ。

もったいなかったなぁ、、、あの黒紫の花好きだったな。一重咲きの下向きで咲いている姿、好きだったなぁ。白とか薄ピンクのぼんやりした色の花ばかりが咲く中で、いいアクセントになっていたよなぁ、と盛大な心残りがあった。
そんな傷心状態でたまたまホームセンターの店先で出会ってしまった禁断のメリクロン苗。種から交配した自然な実生苗とは異なる方法で培養されたものを実際に購入するというアクションを起こすことで、一体どんな因果がもたらされるのか、いまのところ全くわからない。ただ、ペットロスに新しいペットを迎え入れるように、ラベルに印刷された花がほぼ確実に咲くというクローン植物を手に入れたという顛末。
順調にいけば再来年の春ごろでしょうか、花が咲くだけが植物ではないけれど、はたして謳い文句どおりのお花がどんな様子になるのか、気になるところではある。

苗の選び方が問題だ

今から6年前に出会った、雪に埋もれようが霜にあたろうが全くビクともしない丈夫なお花で、冬枯れの小さな庭に彩りを与えてくれるクリスマスローズがすっかり気に入り、勢いづいて追加で苗を買ったりした。

今から三年前の様子。
ポット苗から鉢に植え替えた時の姿をあらためて見返してみると、失敗したなぁとつくづく思う。
細い葉っぱがあちこちからヒョロヒョロ伸びて、いかにも花つきの悪そうな苗を選んでいる。


それから三年経過した姿がこれ。
貧弱な新芽が気まぐれに出たり枯れたりする状態が長く続いて、一向に成長しない株に一度は諦めて捨てようとも思ったが、今シーズンを迎えてようやく花芽が付いた。

丈夫な植物とはいえ、土も肥料も水やりも日当たりも植え替えも、なんとなく気にかけながら三年も面倒をみてるんだから、もっと力強くニョキッっと花茎が伸びて、ゆったりカラフルな花がたくさん咲いて欲しいのだが、お店に並んでいる苗にも当たりハズレがあることを学んだ。
まあ花が咲くことだけが植物ではないけれど、咲かなければ咲かないでモヤモヤするのは、どこかで期待する気持ちや見返りのようなものを求めているからだろうか。

前回の教訓を生かすべく、今年は椰子の木のような力強い姿のものを厳選してみるものの、大丈夫かなと一抹の不安はある。
シングルでもダブルでも何でもいいから、妖しい黒い花が咲いて欲しいと勝手に思っている。